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人の本質に根ざしたリーダーシップ(助け合えば、個人も組織も元気になる)

当ブログでは、組織内の研修・人材育成担当者の方、管理職やリーダーの方々に役立つ情報を発信しています。組織改革、管理職育成、リーダ研修、人材開発、リーダーシップ開発、ビジネスコミュニケーションなどのご参考になれば幸いです。JRLAの理事3名が執筆を担当しています(月:林、水:向川、金:大石)。

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人の本質に根ざしたリーダーシップ(助け合えば、個人も組織も元気になる)

🕙 2019-10-26 06:00 👤 林 英利

当協会顧問の浅井浩一氏が執筆した、全国の国・地方行政機関へ配信された記事をご紹介します。経験から語られる説得力のあるリーダーシップ論は、部下との関係やチーム運営、業績などに悩むリーダーの皆さんに解決のヒントを与えてくれることでしょう。

<著者紹介>

浅井 浩一(あさい・こういち)

一般社団法人 日本マネジメントケアリスト協会 理事長

一般社団法人 日本リレーショナルリーダーシップ協会 顧問

1982年、J T (日本たばこ産業)に「勤務地域限定の」地方採用として入社。「どんなにがんばっても偉くなれない立場」から、キャリアをスタートさせる。

日本一小さな工場勤務での、きめ細かいコミュニケーションを通じた働きぶりを買われ、本社勤務に。その後、営業経験がまったくない中で、全国最年少所長に抜擢され、リーダーとしての一歩を踏み出す。「まず、自分にできることを一生懸命やる」「部下を信頼し頼る」をモットーに、自ら自転車で販売店をまわり、部下と共に汗をかくひたむきさに、「こんな素人の若造に、何ができるんだ!」と疑念を抱いていた部下たちも信頼を寄せるようになり、営業所の業績も急上昇していく。

「一人の落ちこぽれも作らず、チームが一丸となるマネジメント手法」により、職場再建のプロと称され、次々と任された組織を活性化させ、とうとう歴代最年少支店長に大抜擢。31支店中25位より上位の成績をとったことがなく、閉塞感に陥っていた支店を2年連続日本一に導き、激戦首都圏で会社史上初の外資系企業からのシェア奪還を果たすなど、数々の偉業を達成。

2001年より日本生産性本部(経営アカデミー)で多くの企業幹部を指導。

現在、「正直で助け合える組織づくり」などをテーマに、業種を問わず、数多くの企業、大学、ビジネススクール、各種業界団体、NPO団体、行政機関等で幅広く講演、コンサルティング、学会での提言活動等を行う。著書、『はじめてリーダーになる君へ』(ダイヤモンド社)は、ロングセラーとして多くの企業で、リーダーシップ、マネジメント教本として活用されている。

★オフィシャルHP http://ayayagakkou.com/

人はきっかけさえあれば必ず変われる

私のマネジメントの背景には、人を孤独にさせてはならない、という強い信念があります。マザー・テレサも、「ヒトにとって一番辛い病は、孤独という病である」と言っています。

このような信念を持つに至った背景には、私のこれまでの生い立ちも関係しています。3歳の時に両親が離婚し、極貧状態で母が洋裁仕事で深夜遅くまで働いて暮らしをたて、育ててくれました。病弱な母が入院中は、田舎の祖父母のもとに預けられ、孤独を感じながらも、母から毎日のように送られてくる手紙には必ず、「こうちゃんが宝もの」と書かれ、愛されながら育ちました。

チック症でおどおどしていて勉強ができない自分。小学5年生のときにそんな落ちこぼれで引っ込み思案な自分を大きく変えてくれる出来事がありました。美術の先生に描いた絵を褒められ、校長室に飾ってもらったことです。そのことがきっかけで少しづつ色んなことに前向きに取り組めるようになっていきました。こんな自分だって変われたんだ。「人はきっかけさえあれば必ず変われる。」と思うようになった所以です。

入社以来まったく営業経験のなかった私が、当時全国最年少の営業所長に大抜擢され、その後、歴代最年少支店長に任命され、極めて業績が低迷し閉塞感に陥っていた支店を連続日本一に導くことができた。こう書くといかにも専門能力とマネジメント能力に長け、馬車馬のように働く戦士のような印象を持たれます。ところが実際の私は、専門能力はからっきし、PCもろくに扱えず、マーケットを分析したり数字を読む力は極めて劣っています。

それではなぜ、任された組織を活性化させ、日本一という優れた業績をたたき出すことができたのか? そのわけは、全営業員がひとりの落ちこぼれもなく、会社史上初の全員標準以上の評価を獲得できたことにあります。すなわち、一部の優秀なメンバーによってもたらされた快挙ではなく、全員が成長し、お互いが協力しあう『チーム力で戦う体制』を構築できたことが快挙を成し遂げたわけの全てと言っても過言ではありません。

営業ど素人の私は、「営業用語の基礎知識」という新入社員読本を渡され、任地に赴きました。その時の想いをノートにこう記しています。「あまりあるチャンスを与えていただいた会社に対し、ここから先はすべての私欲を捨てて恩返しの人生。ありがたい ありがたい」「宝と思って育てるから宝になる。手塩にかけて育てた子は必ずいい子に育つ」

そんな想いを抱いて営業所に着任しましたが、営業経験がまったくないので、営業員が話している言葉も全然わからない。自信をなくし落ち込んでいたところに、母からのお祝いの手紙が届きました。手紙には、「おめでとう」の言葉の後に、「あなたを信じて働いてくださる部下の方に感謝し、自ら率先して汗をかくんよ」と綴ってありました。そして、「たくさん歩いても足が疲れにくい靴をみつけたので送ります」という言葉とともに、一足の靴が添えられていました。経済的にとても苦しい中、病弱な母が深夜遅くまで洋裁仕事で一生懸命働いたお金で買ってくれた靴。その靴を見た瞬間、涙がとめどもなくこぼれ落ちました。​​​​​​​


組織総力体制の構築

1.メンバー全員が階差なく確実に実行することが理解できるレベルまで、やるべきことを明確に共有する

上司が部下にやる気を出せとほえる。部下は心の中で「自分なりにやることはやってるつもり」とつぶやく。これではどんなにほえても部下が上司の期待する行動に移せないのは当たり前です。


2.共有した内容が、メンバー全員が腑におちるようコミュニケーションする

伝達とは、いかに伝えたかではなく、いかに達したかであり、コミュニケーションの大切な機能は、発信者と受け手の認識のずれを丁寧に確認することです。

そして、達しているかどうかを判断できる最良の方法は、単に言葉のやりとりにとどまらず、部下が具体的にどういう行動を起こしているかを『事実』でみて、その事実に基づいた対話をすることです。


3.やろうと決めた内容が出来てるか否かをタイムリーにみる。

まず、どんなにきめ細かくやるべきことを共有しても、「物事は思い通りにいかない前提にたつ」ことが肝要です。市場は怒涛のように変化し、競合相手はわれわれの想像できない攻勢に出てくる。物事は思い通りにいくわけがない。

そのためには事を進める前に、いかなる手段でモニタリングするか、「見る手段」を確立しておくことが重要です。

ただし、さらに重要なことは、どんなに精緻にモニタリング手段を構築しても、データは単なる問診材料。データで事態の推移がわかったような気になるならむしろモニタリングは弊害となります。一番正確なモニタリングは、部下の正直な申告です。組織が正直になれず、問題が隠蔽されてはいかなる戦術も機能しません。この「組織が正直である」ことが、組織再生の最大の決め手と言っても過言ではありません。


4.できてない事実に対し叱るのではなく、支援の姿勢を堅持する。

PDCのCは、管理&チェックのCでなく、ケアのCと心得る。できてないわけを真摯に受け止め、できるようにするにはいかなる支援が必要かを発想し、具体的な支援を積み重ねることで、部下は上司を信頼するようになり、正直なSOSがあがってくるようになります。

報連相は上司から部下になされるものと心得る。なにか悩みがあったら相談に来いと部下に告げても、相談に来るのは優秀な部下のみ。自信を失っている部下が自ら相談に来るのは極めて稀です。誰しも自分の弱みを正直に開示する勇気がでないのは当たり前。

「あの取引先に挨拶にいったら、まったく聞く耳をもってくれなかった。どうしたものかなぁ。お前も苦労してるんじゃないか。」こうした上司からの本音の声に誘発されて部下も心の内を開示してくれるようになります。「理解する=understannd」uander(下に)stand(立つ)」部下を理解しようと思えば、肩書きをふりかざしたおごりの姿勢でなく、謙虚に部下に接することです。下にたって立ちすぎることはありません。


5.個々人が抱えている課題、チーム(組織)が抱えている課題に対し、真因に応じた対策をタイムリーに打つ。

正直に出てきた個々人の抱えている克服すべき課題を整理することで、限られた時間で郊果的なコーチングが実施できます。自走できてる部下と、相当課題を多く抱えてる部下に同じ労力を使うという弊害も回避できます。その際、自走できてる優秀な部下に、課題を多く抱えてる部下に対する育成の支援を依頼することで、さらに成長の速度は加速します。

業績という結果のみならず、チームヘの貢献行動を評価に組み入れ、きちんと評価に反映することで、業績優秀な部下が自分の業績のことのみならず、チーム全体の業績を発想して行動する呼び水となります。精神論だけでは人間の意思は長続きしない。行動してもらいたいならば、望ましい行動をきちんとみてあげて評価してあげることが大切です。

さらには個々人の課題の整理を行うことで、単に個人が抱えている固有の課題か、部下の大半が共通して直面してるチーム全体が抱えている課題も明確に浮き彫りになります。優秀な部下にも超えられない課題は、個別コーチングの域を超えて、戦略スタッフも交え、チーム全体で抜本的な対策を検討する必要があります

その際、効果的な会議の有り様が問われます。出席者に分厚い資料が配られ、立石に水のごとく説明され、説明が終わった途端に何かご質問はと問われて、質問が出るわけがない。ましてや、反対意見を言おうものなら、チームの足をひっぱる要注意人物がごときの反応を示されると、誰も本音を言わなくなります。

会議は作業指示の命令を聞く場ではない。事前に議論してもらいたい議題を現場に送り、現場の声をもちよって会議に出席する。そして、反対意見、少数意見にしっかり耳を傾ける。むしろ反対意見を奨励するぐらいで丁度いい。白黒勝敗をつける対立軸の議論からは創造は生まれません


大切にしてる5つの心がけ

最後に、上述した工程を進める上で大切なのはなんといっても指揮官のリーダーシップの有り様です。私が大切にしている5つの心がけを記します。

第1に、なんといっても部下に対する思いやりを堅持することです。

多くの現場を経験してきた中で、組織を活性化するには血の通ったコミュニケーションが欠かせないことを痛感しました。本来の使命感を喪失し、目先の業績の善しあしばかりに意識を奪われ、成績表をふりかざして「やる気を出せ」と精神論をぶちまけても、目の前の部下が熱を出していようが、悩みを抱えて一人苦しんでいようが気にもとめず、無理して働かせてる状況では、部下が頑張れるわけがない。

部下に誠実に関心を持ち喜びや苦しみを共有することを忘れてはならない。とにかく話を良く聞き、読み取り、どうすれば部下のやくに立てれるかを真剣に考える。これを基に共に行動すれば、心を動かすことができます。

第2に、使命感と情熱を持ち、自ら身体を張って行動することです。

口先だけの人間には決して人は本気ではついてこない。ついてこないどころか人心は離れるばかりである。リーダーが自ら率先して行動する姿勢そのものが、部下の行動を誘発します。

第3に、部下に対して地位・権力でなく、人間としてヒトとして向き合うことです。

私がマネジメントとして宣言した言葉をご紹介させていただきます。「命がけで産み育ててくれた親に感謝し、いかに生きるかを問い続け、部下に対して地位・権力でなく人間としてヒトとして向き合うことを宣言します。」

その通りにいかない自省は多々ありますが、どんな人問になりたいか、自分の生き方そのものが映し鏡のようにリーダーシップの有り様に投影する。ナイチンゲールの「人にいかなることをなし得るかは、自分がいかなる人間であるかにかかっている」という言葉を忘れないようにしたい。

第4に、おごらず、学ぶ姿勢をいつも堅持することです。

部下ひとり一人に丁寧に眼をむけると、みんな良さを持っています。そうした部下の良さから謙虚に学ぶ姿勢そのものが、部下の力を引き出す最大の原動力になります。

朝一番に欠かさず毎日行動していることがあります。それは、その日が誕生日の部下に誕生日のお祝いメッセージを送ることです。そして一人ひとりの部下に分け隔てなく声をかけて回る。そうして部下と接する中で見つけた部下の良いところを「褒めネタ帖」としてまめにメモして、部下を褒めて励ますようにしています。精神的なケチにはなりたくありません。

第5に、使命と覚悟に裏付けされた徹底性と継続性を堅持することです。

私たちは何のために集い、何のために行動するのか。この使命という軸がしっかり堅持されていれば、様々な応用的なチャレンジが目的と手段の混同、本末転倒に陥ることはありません。

リーダーシップの本質は、人間らしい生き方の中にあります。マザー・テレサがノーベル平和賞を受賞した時、新聞記者の「私たちは世界平和のために明日から何をしたらいいですか?」という問いかけに、「お家に帰って家族を愛してあげてください。」と答えました。自分が家族を愛するように、みんな自分と同じように愛する家族と、そしてかけがえのない人生がある。この大切なことを決して忘れてはならない。

あなたは任された組織をどんな組織にしたいですかと聞かれたら、躊躇なく『助け合える組織』と言います。極めて業績が低迷し閉塞感に陥ってた組織が蘇り、破格の日本一をたたき出すことが出来たのは、誰一人メンバーが入れ替わったわけでもなく、優れた戦術を駆使したわけでもない。協力し合ってチームが一丸となれたこと。「助け合いの精神」が日本一の業績という褒美をもたらしてくれました。


おわりに

最後に、公の志をもって日夜頑張ってくださっている皆様に本当に感謝したいです。これはリップサービスでなく、心からそう思います。

そして、閉塞感に陥っている今こそ、皆さんの志がひとつになって助け合い、是非愛する日本を素敵な国にしていただきたい。日本人の一人としてささやかですが私自身もそうあるべしと行動していきたいと思います。

林 英利

JRLA(一般社団法人 日本リレーショナルリーダーシップ協会)代表理事。大和ハウス工業(株)、トヨタ自動車(株)などを経て、プロコーチ・研修講師として独立。2015年より銀座コーチングスクール代表。国際コーチ連盟(ICF)日本支部 顧問