JRLA Staff Blog

『韓非子』に学ぶ「人間不信のリーダーシップ」とは?

『韓非子』に学ぶ「人間不信のリーダーシップ」とは?

🕙 2020-05-08 06:00 👤 大石 典史

『論語』や『孫子』とともに、リーダーの必読書のひとつとも言われる『韓非子』。

そこにはどのような精神が貫かれているのでしょうか?

『韓非子』に貫かれている「人間不信」

今日のJRLAブログでは、この『韓非子』に見られるリーダーのあり方(部下との関わり方)についてご紹介したいと思います。

参考図書として、中国古典の翻訳や、これに基づくビジネス書を多く執筆されている守屋洋氏の著書である『リーダーに絶対役立つ韓非子』(PHPビジネス新書)をもとに進めていきます。

『韓非子』は、中国戦国時代の思想家・韓非(かんぴ)の著作であり、全部で五十五篇から成っています。

『韓非子』全編を通じて貫かれている哲学は「人間不信」。

人を動かしている動機は、愛情や思いやりや義理人情でもない、ただひとつ利益である、と主張しています。「人間は利益によって動く動物である」というのが、『韓非子』の認識であるとされています。

守屋氏は言います。

昔から『論語』を座右の書として挙げる人物は多いが、『韓非子』を挙げる人は少ない。それは、トップやリーダーの必読書として、『論語』はいわばスタンダードナンバーの地位を獲得しているのに対し、『韓非子』はどちらかと言うと異端の書に近い扱いをされてきたからである。

言うなれば、『論語』が「性善説」の上に成り立っている哲学であることに対し、『韓非子』は「性悪説」の上に成り立っている哲学である、といったところでしょうか。

『韓非子』における「人間不信」の哲学とは何か?

では、この『韓非子』における人間不信の哲学とは、具体的にはリーダーが部下とどのように接することなのでしょうか?

守屋氏は著書の中で、トップが身につけるべき7つの“術”として「部下を操縦する7つの心得」を掲げています。

ちなみに、このネーミングからしても、いかに『韓非子』が「性悪説」の上に成り立っているのかがよくわかり、興味深いですね。

1. 部下の言い分を互いに照合して事実を確かめること

部下の言動に注意を払っても、それらを照合して確かめてみなければ、事実はつかめない。また、一人の言葉だけを信用すれば、トップの目はふさがれてしまう。

2. 法を犯した者は必ず罰して威信を確立すること

愛情があり過ぎれば、法は成り立たない。威信がなければ、下の者につけこまれる。だから、刑罰を厳しくしなければ、禁令が行き渡らないのである。

3. 功績を立てた者には必ず賞を与えて、やる気を起こさせること

賞が薄く、しかも当てにならないとなれば、部下はやる気を出さない。賞が厚く、しかも確実にもらえるとなれば、部下は死ぬ気になって働く。

4. 部下の言葉に注意し、発言に責任を持たせること

部下の言葉に注意しなければ、有能か無能か見分けがつかない。部下の発言に責任を持たせなければ、確実な比較はできない。

5. わざと疑わしい命令を出し、思いもよらぬことを尋ねてみること

たびたび引見しながら、いつまでも登用しなければ、腹黒い相手はさっさと退散する。思いも寄らぬことを尋ねてみれば、相手は勝手なことができなくなる。

6. 知っているのに知らないふりをして尋ねてみること

知っているのに知らないふりを尋ねてみると、知らなかったことまでわかってくる。一つのことを熟知すれば、隠されていたことまで明らかになってくる。

7. 白を黒と言い、ないことをあったことにして相手を試してみること

白を黒と言い、ないことをあったことにして、疑わしい相手を試してみれば、陰の悪事までわかってくる。

トップやリーダーの裏側にあるもの

まさに、「人間不信のリーダーシップ」のタイトルに相応しい(?)姿勢・態度が貫かれていますね。

言い換えれば、トップやリーダーは、常に自分の置かれている立場の難しさや孤独感を感じているからこそこのような対応になる、とも言えそうですね。

『韓非子』の貫く哲学には賛否両論あると思いますが、個人的には、トップやリーダーは、一度は目に通しておくとよい著書ではないかと感じています。

大石 典史

東証一部上場企業2社を含む4社で法人営業、コンサルタント職、人事総務等を経験。現在は、銀座コーチングスクール(GCS)丸の内校代表、研修講師、パーソナルコーチを務める。国際コーチ連盟(ICF) 認定コーチ(ACC)。